| 校舎建築材料が教育環境に及ぼす影響を明らかにするために、教室の物理的環境、子どもの活動と教室利用、子どもの情緒、保健衛生の各分野から総合的に調査・検討した。実験手法としては、アンケート調査によって木造校舎と鉄筋コンクリート造(RC造)校舎との相違点を明らかにするとともに、現場調査によって相違を来す背景・原因を探ろうとした。対象校は木造校舎とRC造の他、木材で内装したRC造校舎(内装木質校舎)をも対象とした。アンケート調査に際しては、全国の小中学校を対象としたが、新築の木造校舎は大都市圏にはほとんど見当たらないので、校舎間の比較をするに当たって、周辺環境からの影響をできる限り小さくするために人口密度600人/?以下の地域の学校(木造校舎62校、RC造校舎43校、内装木質校舎42校)を分析対象にした。結果を要約する。
全国の小中学校を対象として、教師や子どもの様子をアンケート調査によって探った結果、建築材料による校舎環境の相違が、保健衛生上の問題や、教師の健康、子どもの授業中の様子等の諸点に影響していることが知れた。さらにいずれの問題においても木造校舎の方がRC造校舎より優れていることの示唆を得た。保健衛生事項としては、RC造校舎は教室内での怪我や保健室の利用頻度が高いことが明らかにされた。特に、特定な理由の無いまま保健室を利用する傾向がRC造校舎の子どもに有意に多いこと、しかも増加の傾向にあるということは注目すべきことと受け止める。教室での授業中の子どもの様子にも、RC造校舎の子どもはストレス症状や身体症状のいずれもが木造校舎より多く現れており、授業中の各種の症状の多さと保健室の利用の多さとは関わりを持つように思われる。また、教師の健康についてもRC造校舎の教師にはストレス症状がうかがわれており、アンケート調査からはRC造校舎では教師も子どももともに余裕の無い状態に置かれていることが危惧される。一方、同時に比較された内装木質校舎は種々の点で木造校舎とRC造校舎の中間的な反応が得られたことから、RC造校舎の教室内装を木質化することによって教育環境を改善させ得ることが示唆された。
岐阜県の小学校を中心とした現場調査の結果、次の知見が得られた。
子どもの情緒:子どもの精神状態には、木造校舎とRC造校舎との間に相違のあることが認められた。すなわち、木造校舎の子ども達はRC造校舎の子ども達より情緒が安定していて攻撃的でないことが明らかにされた。校舎環境からの影響は特に女子に顕著に現れており、RC造校舎の女子は木造校舎の女子に対して抑うつ性、劣等感をもつ傾向がみられ、神経質で攻撃性がより強く情緒がやや不安定であるといった傾向が認められた。同時に調査した怪我の発生原因を探ると、木造校舎では「うっかり」「ぼんやり」「失敗」など当人自身に原因した怪我が多いが、RC造校舎では「けんか」や「人に押された」など他者の関わった怪我が目立っていた。このような相違は子どもの精神状態と関わっているように思われる。
子どもの教室利用と活動
教室の利用のうち作品や教材の掲示は主要な教育活動であるが、木造校舎の場合は使用者側の自由な工夫による掲示活動が行われていることが確認された。子どもの教室内での活動は木造校舎、RC造校舎ともに活発であり、両校舎ともに床に座っての作業や遊びが頻繁に見られた。従って、床材は座ることに適した、温かく、柔らかなしかも活動し易い条件を備えている必要のあることが解った。また、RC造校舎と木造校舎の両方の生活体験をした子ども達は種々の点で木造校舎の方を高く評価しており、木造校舎での生活を好ましく思っていることが知れた。これらのことは、木造校舎を人間らしい温もりあるイメージで捉えていたアンケート調査結果を補填するものである。
教室の物理的環境
教室内の湿度環境は内装材料の影響を受け易いことが明らかになった。すなわち、冬期では、RC造校舎の場合はストーブによる採暖をしても床及び周壁面が暖まりにくいために、頭部は高温であるにも関わらず足元が冷えているといったのぼせやすい状況を来すこと、さらに床付近は低温湿度の環境を作り易いので、床を活動場所に使う子どもにとっては好ましくない環境であることが解った。ちなみに、10℃のコンクリート床環境においては木材の床環境よりも足や手の皮膚温度を低下させ易いことが明らかになった。身体末端部の温度低下は作業意欲を減退させる危険性がある。一方、木造校舎の場合は採暖によって周壁面が暖まり易いのでRC造校舎より好適な環境を形成し易いことが解った。夏期においては、RC造校舎の場合は壁面日光の直射による蓄熱効果が見られたが、対象とした小学校では天井からの熱断熱は問題視するほどではなかった。一方木造校舎は外気の温度が教室内部に伝わり易いことが知れた。小学生の生活実感にも夏期の暑さを問題視する声が多いので、効果的な断熱施工や熱気の滞留を避けるなどの設計上の工夫が必要である。教室の気密性については、新築の木造校舎はRC造校舎と同程度の気密性を持っていることが解った。これらの結果は床の振動課題も含めて木造校舎の改善の手掛かりを与えている。
以上、アンケート調査と現場調査から得られた知見を踏まえると、建築材料が醸し出す物理的環境は、子どもや教師の身体や心に影響を与えており、木造校舎はRC造校舎より好ましい教育環境が形成されていることが明らかにされた。同時に木造校舎については夏期の暑さや床の振動などの解決課題があること、RC造校舎では教室の内装を木質化することによって教育環境を改善させ得ることが提案された。本研究は「緑と水の森林基金」の助成を受けて行われている。 |